心理学的尺度構成法

色彩検定1級トピック

色というものは数値で測りにくいものです。

色彩学者たちによる色の区別のルール、またはいくつもの測色方法などは、人間が色を定量的にとらえようとした取り組みの一つです。

しかし、いかに波長を数値でとらえたとしても、色は色です。製品を含めたデザインの世界に用いるものである以上、人間が色をどう感じるか、という心理学のアプローチも重要であることは言わずもがなでしょう。

そういった人間の色に対する主観的な反応を測れるように、その基準を作る方法があります。それが「心理学的尺度構成法」です。これを使って、色が人間の心にどうとらえられるかを計測することができます。この心理学的尺度構成法には、いくつかの方法があります。

  • 選択法
  • 一対比較法
  • 順位法
  • 評定尺度法
  • マグニチュード推定法
  • SD法

 

一対比較法

例えば2つの色を比較して「どちらが好きか」など特定の判断をしてもらいます。そして、評価対象の色を総当たりで同じように確認していくことで、最終的な順位を決定することができます。

とてもシンプルな方法ですね。

しかし、総当たりで比較するため、評価対象の数が多い場合は、比較の試行回数が指数関数的に多くなります。あまり試験者に負担がかかると、疲労によっても見える「色」が変わってくるという問題があります。

 

試験者に優劣のみを判断させる方法が「サーストンの一対比較法」です。2つのうちどちらかを選んでください、というやつです。

また、評価対象についてどちらがどのくらい優れているかを判断させる方法が「シェッフェーの一対比較法」です。右左どちらがいいか、だけではなく、例えば右左どちらがよいか、そして5段階中どれくらいよいか、などですね。当たり前ですが、サーストンの一対比較法に比べて、試験者の負担がより増えます。

 

 

SD法

SD法、セマンティックディファレンシャル法とは、アメリカの心理学者オズグッドによって考案された。心理学、社会科学の分野で用いられる調査法です。

「よい」「わるい」、「楽しい」「つまらない」など、対になる形容詞を両端に置き、その間に「非常に当てはまる」「どちらともいえない」「やや当てはまらない」などの、なんかアンケートとかでよく見る選択肢のやつですね。

 

評価対象に対して、形容詞の項目(評定尺度)を10から20ほど用意します。そして、一般的に5段階から7段階ほどの尺度を置きます。

SD法のキモはこの評定尺度です。評価対象に対してさまざまな方向から十分な量の尺度を用意してあげないと、最終的に得られる結果も偏った、信頼性の欠けるものになってしまいます。

 

因子分析

実際のテストを通して評価対象に対する評定尺度の回答を得ることができました。では次に、得られた値を基に平均値を算出して、評価対象の一般的なイメージを割り出しましょう。この、平均的なイメージを図式化したものを「イメージプロフィール」と言います。

余談ですが、プロフィールというのはカタカナ的な発音で、実際のアメリカ英語としてはプロファイルが近いですが、刑事サスペンスものの洋ドラが好きな方はよく聞いたことがある単語かもしれません。手がかりなどをもとに犯人がどういう人物かを割り出すことを「プロファイリング」と言います。この、性質のあぶり出しを「色」に対して行うわけですね。

 

さて、イメージプロフィールによって評価対象の新たな性質が見出せる場合があります。例えば多くの人が、

 

  • 「冷たい」より「暖かい」
  • 「暗い」より「明るい」

 

を選択した場合、評価対象には「暖かく」て「明るく」かにさせる何らかの要素を持っていて、それが人々の判断に影響を与えていると考えられますね。このなんらかの要素のことを「因子」と言います。そして、

評定尺度のデータ(イメージプロファイル)→ 因子

というように、主に専用の統計ソフトなどを使用して、得られたデータから因子を割り出すことを「因子分析」と呼びます。

専用ソフトといっても、エクセルなどでも可能です(ただ、扱える量に限界がありますが)。もし、どんな雰囲気か知りたい方は、下の「統計WEB」さんのページを除いてみてください。

因子分析─エクセル統計による解析事例(統計WEB)

では、評価対象に対する人の判断に、何かしらの影響を与えている何かしらのファクター、「因子」をいくつか割り出したとします。この因子分析を通して、因子に関する2種類の情報を得ることができます。それが、

  • 因子負荷量
  • 因子得点

です。因子負荷量から見ていきましょう。

 

今あるデータは、

  • 評価対象に対する複数の「評定尺度」の項目
  • 評価尺度への回答から導き出した複数の「因子」

ですね。それぞれの「評定尺度」への回答値を利用すれば、その「因子」がどれだけ人の判断に影響を与えているかも調査できそうですね。

この、特定の「評定尺度」が特定の「因子」どれだけ影響を与えているかを数値で表したものを「因子負荷量」と言います。

「因子負荷量」は -1 から 1 までの範囲を取ります。0 がニュートラルポジションで、「因子負荷量」が0に近づくほど、その「評定尺度」はその「因子」への関連性が低くなります。一方で「因子負荷量」が絶対値 1(つまり 1 もしくは -1)に近づくほど、その「評定尺度」はその「因子」にたいして、評定尺度のどちらかの方向(例えば、冷たい、もしくは暖かい)で影響を与えていることにになります。

通常は、この因子負荷量の高い評価尺度の名前を基に、因子に名前を付けます。

例えば、「赤」という色を評価対象として、「暑いか寒いか」では「暑い」、「元気か静寂か」では「元気」という回答を多く得た場合、そこから「陽気さ」という因子があると考えることができるかもしれません。

そして、この因子「陽気さ」とそれぞれの評価尺度「暑いか寒いか」や「元気か静寂か」との関連度合い(難しく言うと相関係数)が「因子負荷量」なのです。

 

次に「因子得点」です。

「因子得点」とは調査対象がどれだけその「因子」の特徴を持っているかを表す点数です。ちょっと分かり難いですね。

例えば、「赤」という色を評価対象として、「陽気さ」という因子が導き出されたとします。今度はこの因子と評価対象、すなわち「赤」を比較することになります。

「赤」以外にも「青」「緑」といった評価対象があったとしましょう。この各評価対象が因子「陽気さ」の特徴をどれだけ持っているかを点数化したものが「因子得点」です。

 

  • 評価対象「赤」は因子「陽気さ」の特徴を強く持っているので因子得点が高い
  • 評価対象「緑」は因子「陽気さ」の特徴を余り持っていないので因子得点が低い

 

というように考えることができますね。この「因子得点」を各座標軸にして、各評価対象がグラフ上のどこに位置するかを示すことで、各評価対象や各因子の関連性を、視覚的にわかりやすく把握することができます。このように因子と対象の関連を表した図を「イメージマップ」と呼びます。

 

デジタル制作のためのカラーリファレンス