心理物理学的測定法
色彩検定1級トピック心理物理学的測定法とは、ドイツの心理学者フェヒナーによって提唱された、心理学的な測定方法です。
心理学的尺度構成法は、どちらかというと、色やデザインを見た時に、人がどういう感じ方をするかの統計を取る手法です。それに対して、心理物理学的測定法とは、刺激の値(物理量)と心理的な値(心理量)の関係性を調査するものです。
例えば、色光の波長などが物理量、赤に見える、という感覚が心理量ですね。
心理物理学的測定法には、代表的な手法として、以下の3つが挙げられます。
- 調整法
- 極限法
- 恒常法
調整法
「調整法」は、実験参加者が自分で刺激の値を調整する方法です。
例えば、特定の色を提示して、それと等色するように刺激値を調整するように要求するようなテストが「調整法」に当てはまります。
また、上の等色実験のように、参加者が自分で調整して、基準の刺激と同じと判断した刺激値を「主観的等価点」と言います。物理的な値がどうかに関わらず、実験参加者の主観的には、同じように感じているポイント、という意味ですね。調整法は、この主観的等価点を見つけ出すのにうってつけの計測方法というわけです。
しかし、もちろんデメリットもあります。
一般人である参加者が自分で刺激値の調整を行うため、その感覚が発生するちょうどぴったりの値を見分けるのは困難です。この、感覚が発生する閾値(いきち)、つまり境目の値を「絶対閾」もしくは「刺激閾」といいます。
また、感覚があるなしではなく、感覚の変化を感知できる最小の刺激差を「弁別閾」と言います。弁別って聞きなれない単語ですね。「別」はもちろん、「弁(わきまえる)」も、”分ける” という意味を持っているんです。「勘弁する」の弁なんかは分けるの意味です。
弁別閾は、調整法を何度も試行した結果の平均(ばらつき)を取ることで、この辺からこの辺の刺激値で判別できているな、と導き出すことができます。
極限法
「極限法」は、実験実施者が刺激を一定量変えて実験参加者に提示し、判断をしてもらう手法です。イメージとしては、視力検査の輪っかを見せていくのに近いですね。はい、次のこれは見えますか~? みたいな感じです。
調整法が、刺激量を連続的に変化させるのに対して、極限法は一定の間隔を持って変化せていきます。つまり、これはある程度明確に判断の境目を見つけ出すことができますね。つまり極限法は、「絶対閾」「弁別閾」「主観的等価点」のどの計測にも向いている手法ということです。
恒常法
「恒常法」は一番凝った測定方法です。実験参加者に異なる刺激値を提示していくのは極限法と同じです。しかし、一定間隔で徐々に刺激値を変化させていく極限法とは違って、恒常法は、事前に用意した異なる刺激をランダムに実験参加者に提示します。
視力検査の輪っかを見るのは同じでも、画面に出てくる輪っかの大きさが毎回完全にランダム、みたいな感じです。スパルタですね。
もちろん、実験参加者の負担が大きいので、疲労による判断の変化や集中力の体かが発生する可能性があります。これはデメリットですね。また、完全にランダムであるため、同じものを見ても、参加者が前と同じ反応を示すとは限りません。
一方で、参加者の意図や予測が全く入らないので、より精度が高い結果を得ることができます。視力検査が印刷された表であれば、前の輪っかが右向きだったから、次の輪っかは右はないだろう、と予想されてしまいますが、完全にランダムで輪っかの画像が画面に表示されるのだとしたら、そのような予想の入り込む隙はなさそうですね。
ウェーバーの法則
ドイツの生理学者ウェーバーによって発見され、弟子であるフェヒナーによって名付けられた弁別閾に関する法則が「ウェーバーの法則」です。
ウェーバーの法則は「基準となる刺激量と弁別閾との比は一定である」という内容で、人間が区別に必要とする最低刺激量は、母数の大きさに左右されるという事実を示したものです。
例えば、100gの重さに対する弁別閾が5gだとしましょう。つまり、100gと103gの違いは区別できないが、100gと105gの違いなら区別できる、ということです。
これを対象の質量を3倍の300gにした場合、ウェーバーの法則に従うと、弁別閾も3倍の15gになります。100gの時には感知できた5gの差が感知できなくなっているわけです。300gを基準にして質量が変わったと認識するには305gでは足りず、315gまで質量を増加させてあげる必要があります。
フェヒナーの法則
フェヒナーは、上のウェーバーの法則を発展させて「感覚量は刺激量の対数に比例する」という法則を導き出しました。これを「フェヒナーの法則」と言います。
対数ですって。数学用語だ、どうしましょう。うーん、まあいいか、ざっくり「何の何乗」みたいな時に出てくる、べき数(右上の小さい数字)のことだと仮に思ってください。「ap」で言えばPです。数学科の人、どうか怒らないでください、やっているのは色の勉強なので……
感覚量は刺激量の対数に比例する、ということはつまりそれは、感覚量と刺激量は単純に比例しない、ということですね。
ここ、大丈夫でしょうか。
明るさで考えましょう。もとの明るさを1とします。まず照明の明るさ(刺激量)に「+1」して「2」、つまり「2倍」にしたとき、感じる明るさの変化(感覚量)があったとしましょう。そこから、さらにおなじ明るさの変化を感じるには、「+1」の方ではなく「2倍」の方を、適応させてあげる必要があります。つまり明るさを「4」にしてあげると同じくらいの変化が起こったと感じるわけです。
ウェーバーの法則と、言っていることは同じですね。
100gから変化を感じるには105g必要としましょう。100gから105gに変わった時、質量の変化は5gですが、同じように+5gして、105gから110gにしたとしても、先ほどと同じ変化の感覚は得られません。
すみません、念のためですが、上の例はあくまで説明のための適当な仮のグラム数ですよ。