視覚系

色彩検定2級トピック

3級の復習

 

2級で出てくる視覚の仕組みは、3級に比べて一気に複雑になります。というわけで、3級の範囲である人間が物を見る時の仕組みを一度復習しましょう。

光が網膜にたどり着くまで

  1. 光源から光が出る
  2. 光が物体に当たり、特定の波長は吸収され、それ以外の波長は反射する
  3. 反射した波長が目に入る目に入った後は
  4. 角膜が光を屈折させて奥に送り込む
  5. 眩しかったり暗かったりする時は瞳孔で通過する光の量を調節する
  6. 物体の距離に合わせて水晶体が屈折量を調節して、網膜に像を結ぶ

 

そしてついに光は網膜にやって来ました。網膜には2種類の視細胞があります。

 

【錐体細胞】

色を識別できるが、強光しか感じ取れない視細胞。以下の3タイプがある。

  • 短波長(青)を感じ取るS錐体
  • 中波長(緑)を感じ取るM錐体
  • 長波長(赤)を感じ取るL錐体

そして、

 

【杆体細胞】

色の識別はできないが弱光を感じ取れる高感度な視細胞

 

 ではこの2つの視細胞について、もっと細かく見ていきましょう。

 

視細胞の分布

 

まず、この2つの視細胞の網膜上の分布には偏りがあります。分布を確認する前に、眼球の図で、網膜がどうなっているか念のため確認しましょう。

眼球の内側に、球状にぺったり張り付いているのが網膜ですね。結構大きいですね。水晶体の丁度反対側にあるくぼみが中心窩(ちゅうしんか)、その周辺の直径1ミリくらい、つまり水晶体が像を結ぶ辺りが黄斑と呼ばれています。今回のキーはこの中心窩です。

 

眼球の仕組み
  • 中心窩には錐体細胞しか存在しない
  • 中心窩周辺にはどっちも存在する
  • 中心窩周辺以外には杆体細胞しか存在しない

そして、

  • 視神経乳頭(いわゆる盲点)にはどっちも存在しない

「しか」と言ってしまうと正確性に欠けるかもですが、主に中心から何度までに密集して、とか考えているとややこしくなります。別に眼科医になるわけではないので、簡略化して効率よく頭に入れましょう。

 

要するに、色を感じるSMLの錐体細胞は、水晶体の丁度反対側の狭い領域にしか存在しないわけです。像が結ばれるのが網膜のそのあたりになるので、そこに色彩感じ取り部隊が集中するのは理に適っている気もしないわけでもないです。

 

が、そうだとしたら、網膜の中心に映った、とてもとても狭い範囲しか色を感じ取れないことになってしまいます。というか、実際感じ取れていないです。脳が感じ取れていない部分を補ってくれているのです。これがフィル・インです。優秀ですね、脳。

 

 

分光感度

 

それでは、SMLそれぞれの錐体細胞の波長別の感度、つまり分光感度を見ていきましょう。

その前にこれも復習です。

 

  • 可視範囲の波長は何nmから何nm?
  • 長波長は何nmから何nm?
  • 中波長は何nmから何nm?
  • 短波長は何nmから何nm?
答えはこちら
  • 可視範囲の波長は380nmから780nm
  • 長波長は600nmから780nm
  • 中波長は500nmから600nm
  • 短波長は380nmから500nm

 

図にするとこんな感じでしたね。忘れたり、曖昧になたりしないように、こまめに確認しておきましょう。

 

さて、それぞれの錐体細胞の感度を表したものが下のグラフです。

それぞれの錐体細胞ごとに、明らかに得意な波長が違っていますね。

S錐体は、短波長、つまりB(青)の光を良く感知します。感度のグラフなので、グラフの頂点となっている波長が一番感度がいいわけですが、S錐体は400nmと500nmの間に頂点が来ていますね。

一方でG(緑)の光が得意なM錐体、R(赤)の光が得意なL錐体は、頂点がお互いに結構近く、どちらも500nmから600nmの間に収まっています。

L錐体がもうちょっと長波長側にずれてくれれば、見た目のバランスがいいんですが……

 

一体なぜこんないびつな分布をしているかというと、じつはもともとM錐体とL錐体は同じ一つの細胞だったのです。それが進化の過程でM錐体とL錐体が分かれてしまったので、こんなめちゃくちゃ感度の範囲が接近しているんですね。

今でも霊長類以外の哺乳類、例えば犬なんかは錐体細胞は2種類しか持っていません。

 

さて、話を戻しましょう。

この分光感度の違いによって引き起こされるのが色視野の違いです。色視野とはその色を感じ取ることができる視覚上の範囲のことです。つまり、R、G、Bそれぞれの光は、視野の中で感じ取ることができる範囲が違っているわけです。

各色で言うと以下のような感じです

  • 赤・緑が色視野が狭い
  • 青・黄が色視野が広い

青の色視野が広いのは、次で出てくる杆体細胞の分布も関係してきます。黄の波長は500nm後半になりますが、M錐体もL錐体もカバーできる領域ですね。そのことからも、黄の色視野が広いことが想像できると思います。

 

明るさを感じ取る仕組み

上では3種類の錐体細胞の、波長(=色)ごとの感度を見ていきました。次に見るのは、波長ごとの感度に対して、光の明るさが与える影響です。

覚えなくてはいけない単語があります。

 

分光視感効率

 

です。さっき出てきた「分光感度」と似ているようで、なんだか微妙に表現が違うのが面倒ですね…… 頑張って覚えましょう。では分光視感効率とは何か。

 

人間の目は波長(=色)によって感じる明るさが異なります。例えば、同じ強さの赤と黄の光を見た時、人間は黄色の光の方が明るく感じるわけです。そして、波長ごとにどのくらい明るさの感じ方が違うかを表したのが、この「分光視感効率」なのです。

 

下のグラフは人間が明るい場所で(つまり錐体細胞によって)、同じ強さの光を見た際に、どの波長の光が明るく感じ取れるかを示したものです。縦軸で見ると1が最も明るく、0が最も暗く感じます。

これを見ると、555nm、色名で言うと大体黄緑辺りが一番明るく感じるのが分かると思います。この山の形を「分光視感効率曲線」といいます。まあ、分光視感効率の曲線というだけで、名前はそんなに重要ではないですね。重要なのは

錐体細胞(つまり明るい場所で)は555nmの光を一番明るく感じる

ということです。

 

分光視感効率曲線

 

暗い場所では、錐体細胞ではなく、明暗を感じ取る高感度の杆体細胞が主に働きます。杆体細胞は明るく感じる波長が錐体細胞と異なっています。

下のグラフは杆体細胞がどの波長を明るく感じるかを示したものです。グレースケールなのは、杆体細胞は「色」が分からないからです。

 

分光視感効率曲線_暗い場所

杆体細胞(つまり暗い場所で)は507nmの光を一番明るく感じる

ということですね。

繰り返します!

  • 錐体細胞は555nmの波長の感度が最も高い
  • 杆体細胞は507nmの波長の感度が最も高い

OKですね?

 

視物質

 

さて、視細胞の特徴の後は、視細胞が化学的にどう光を処理しているかも少しだけ触れていきましょう。完全に理科の授業みたいになってきていますが……

 

視細胞の中には網膜に届いた光を吸収する「視物質」と呼ばれる受容体が詰まっています。そして、杆体細胞にはロドプシンと呼ばれる視物質が存在します。

 

杆体細胞:ロドプシン(視紅)

 

このロドプシンは周囲の明暗に合わせて分解と合成を繰り返すことで、周囲の明暗に目が慣れる、いわゆる順応に一役買っています。

 

明るいところから暗いところに入ると、杆体細胞に光が当たらなくなります。すると内部でロドプシンが合成されていきます。ロドプシンの数が増えるに従い、杆体細胞の感度が上昇します。これが暗順応です。完全に暗所に順応するには30分ほどかかるとされています。

一方、暗いところから明るいところに入る場合。杆体細胞に光が当たるとロドプシンは一気に分解されてしまいます。そうすると杆体細胞は弱い光を認識できなくなり、杆体細胞の感度が低下していきます。これが明順応です。

感度が低下、というのは別に性能が落ちてダメになる、という意味ではなく、まぶしい場所でも目が敏感になり過ぎずに活動できる、ということですね。ロドプシンの分解速度は合成に比べて早く、明順応は5分程で完了します。

 

一方で、錐体細胞には別の視物質が存在します。

 

L錐体:赤オプシン
M錐体:緑オプシン
S錐体:青オプシン

 

これらのオプシンは光を受容することによって活性化し、電気信号を脳に向けて送ります。こうして脳は視る機能を得るわけです。 

また、錐体細胞の視物質は、明暗によって分解や合成されたりはしません。よって、真っ暗な中で急に色のついた明かりを見たとしても、錐体細胞はすぐにその色を識別することができるのです。

 

 ここで暗記用語出現です。これまでの仕組みが理解できていれば、そこまで特別な単語ではないだろうと思います。

 

暗所視、明所視

暗い場所で杆体細胞が活性状態ででものを見ている状態が、「暗所視」、もしくは「杆体視」。明るい場所で錐体細胞のみで見ている状態が、「暗所視」「錐体視」

そして、明るいところから暗いところへとへ移っていく間の状態を「薄明視」と言います。

 

プルキンエ現象

 

さて、もう一度杆体&錐体細胞の「分光視感効率曲線」を見てみましょう。

分光視感効率曲線(暗い場所)
分光視感効率曲線

「分光視感効率曲線」杆体細胞の感度が最高なのは507nm、錐体細胞の感度が最高なのは555nmでしたね。言い換えると、暗いところでは507nmの色が明るく見え、明るいところでは555nmの色が最も明るく見えるということです。

明るいところ、暗いところで個別で見た場合は上記のようになりますが、明るいところから暗いところに移動した場合はどうなるでしょうか?

 

杆体細胞のロドプシンが徐々に合成されていきます。すると、錐体細胞と杆体細胞の活動比率が変わって、活性状態の杆体細胞が増えていきますね。そうすると、「分光視感効率曲線」の頂点が555nmから507nmに徐々に移動していくことになります。頂点、というよりは山ごと移動ですね。

この山の移動で、どのような現象がおきるのでしょうか。

 

グラフ上で山が左に移動すると、長波長の領域、色名で言うと赤や橙の感度がどんどん下がっていくのが分かると思います。一方で短波長、青の感度は上がっていきますね。

もっと具体的に言うと、周囲が暗くなると赤などの長波長の領域は暗く見えて、青などの短波長の領域は明るく見えるようになります。この推移を

プルキンエシフト

と言い、明るさが変わって見える現象を

プルキンエ現象

と言います。

 

色順応

 

視覚系の最後に、おまけのようなトピックです。

人の目は明暗に対して慣れる、つまり明順応と暗順応についてはお話しました。それに加えて目は、色についても順応します。

例えば、白い紙を蛍光灯で照らしている状態から、急に白熱電球で照らしている状態に変更した場合を考えてみます。

白熱電球は蛍光灯に比べて長波長の成分が多いので、目が受容する長波長の光が急速に増加、短波長の光が急速に減少します。よって脳は白い紙をを全体的に赤みを帯びて再現してしまいます。

これも時間経過によって、各錐体細胞の感度の調整が行われ、本来の色彩でものを見ることができるようになります。これを「色順応」と言います。

一方で、色順応後は、蛍光灯と白熱電球で照射される波長が違っているにも関わらず、白い紙は白として認識することができます。これを「色の恒常性」と言います。

 

デジタル制作のためのカラーリファレンス