測色
色彩検定1級トピック「測色」についてのお話です。測色という単語は聞きなれないかもしれません。聞きなれないかもしれませんが、意味は簡単に想像できると思います。
そうです、色を計測する方法です。
そもそも色とはかなり主観的なもので、この色がどう見えるかは人によって感じ方は違うでしょうし、どう見えているかを言葉で説明する以外に共有することはできません。
色を色をとして見せているのは人間の視覚系です。もちろんそれを作り出しているのは特定の波長の電磁波という科学的に計測できるのものではありますが、それに色があるわけではありません。人間が勝手に色として「翻訳」しているだけです。
しかし、世の中「なんか黄色っぽい赤でーす」では済まない場合があります。例えば絵具。物によって色が違っては困ってしまいますね。あと、肉などはその色によって製品のランクが変わってくるものもあります。
ではその、電磁波を人間が目と頭で翻訳した後の「色」を計測、つまり測色するには、一体どうしたらいいのでしょうか?
以下の2つの測色方法を見ていきましょう。
- 視感測色
- 物理測色
① 視感測色(直接比較法)
測色方法としてまず最初に思いつくのは、自分の目で見て色を判断することです。人間の目で見て色を判定する測色方法を「視感測色」と言います。
しかし、みながみな好き勝手に「これはこんな色だ!」と報告しても、それはただの感想でしかありませんね。
長さを測るときに「これは1メートルくらいかな」という感想では計測にならないので、メジャーかなにか、基準となるものと比べて測りますよね。
色も同じです。
例えばマンセル表色系の色票などを横に並べて比べることで、この色はマンセル値がXXXの色だ、と測色することができます。これのように人間の目で「試料」つまり測定対象と、基準色を実際に並べて比較する観感測色を「直接比較法」と言います。
ちなみに、視感測色には他にも、試料の色と一致するように複数の色を混ぜて値をはじき出す「混色法」なんていうのもあります。
直接比較法に戻りましょう。
「色票と並べて同じ色を判別するだけ? 簡単じゃん。そんなことにわざわざ測色なんていう名前をつけるなんて大げさだなあ」
なんて思うかもしれません。しかし、事はそう単純ではないのです。例えば、測色する場所の照明が色味があるものだったらどうでしょう。もちろん、まともに色を比べることはできませんね。また、試料が光沢があったり、なかったりすると、それによっても色の見え方が変わってきてしまいます。
比較する対象と基準の他に、比較する環境の定義も必要そうなことがわかります。
直接比較法は決められた条件を満たした照明ブースや、「北空昼光」の下で行われます。北空昼光なんてなんだかほのぼのした感じですが、名前から分かるように、北窓からの太陽光です。当たり前ですが、朝焼けや夕焼けの光だと色が違って困るので日の出3時間後から日没3時間前くらいの日の光が使われます。だから昼光ですね。
なんで北窓なの? それは、南向いたら太陽と対峙する感じで測色することになってしまうので眩しくて色を測るどころではないでしょう……
照明ブースで行う場合は、以下のような感じでセットアップします。
- 光源からの光と45度の角度で観察
- 無光沢、無彩色の内装のブース
- 標準光源A、または常用光源D65かD50を使用
- 作業面内で1000から4000lxの照度
この光源と、測定者と試料の角度や位置関係は測色をする上で非常に大事です。この空間的な位置関係を「ジオメトリ」と言います。
標準イルミナントと標準光源
た、上記の条件を見ると、照明の性質にも細かい規定があることが分かります。そりゃそうですね。照明がバラバラだと毎回見える色が変わってしまいます。
そこで「CIE」つまり「国際照明委員会」が、アメリカ・イギリス・カナダで測定した昼光のデータから「CIE昼光」を作り、それを基に測色をする際の照明光の分光分布を定めました。それが「標準イルミナント」です。標準イルミナントとしては、「A」と「D65」の2種類の照明光が存在します。また、それ以外にも「補助標準イルミナント」として「C」「D50」「D55」「D75」などの分光分布モデルが存在します。
もともとはA、B、Cという三種類の標準があったのですが、それに付け加える形で生まれたのがDの後についている数字は色温度を表します。D65であれば6500K(ケルビン)の照明光です。
さて、この標準イルミナントの分光分布を再現した人工光源は「標準光源」と呼ばれます。しかしCIEさんはD65の標準光源の実現方法を規定していないため、その代用として「常用光源」という準標準光源が用いられます。
とりあえず、「標準イルミナント」は重要そうですね。まずはこれを覚えましょう。
どうでもいいののですが、「色彩検定1級」(2020年改訂版)のテキストに
Daylightの頭文字であるDと色温度の数値で表され
と書かれているのですが、ABCの次だからDなんじゃないですか? 確認したところ、今標準イルミナントはA・B・C・D・E・Fまであるようですが、いや、Dだけ何かの頭文字とは思えないです。
② 物理測色(刺激値直読法と分光測定法)
人間の目での測色は見た目上の色をそのまま判別できるというメリットがあります。しかし、一方で、プロフェッショナルとはいえ人間がやることなので、どうしても個人差が出てしまったり、測定者のコンディションにも左右されてしまう可能性もあります。
そこで、物理的な数値を計測するという、もっと科学的なアプローチをとる方法もあります。それが「物理測色」です。
人間の目は、RGB三色の光をLMSの錐体細胞で認識して色を判断するのでしたね。これと同じように3種類の色光を測定するセンサーを使用すれば、実際の色は分からなくても、それを構成する要素が分かり、そこから色を判定することができます。これを色の構成要素である色刺激をそのまま測定する「刺激値直読法」と言います。
刺激値直読法は、
- 標準イルミナントに近い分光分布の照明で、
- CIE測色標準観測者の等色関数に近い分光感度のセンサーで
測定する必要があります。
三刺激値をそれぞれセンサーで読み取る刺激値直読法に対して、分光反射率を測定する「分光測色法」もあります。